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マンション基礎知識
パリのアパルトマンに学ぶ、海外のマンション・コミュニティとは?

19世紀や20世紀初頭に建てられた石造り建築が残るパリ。一戸建てはほとんどなく、集合住宅のアパルトマン(一世帯用の住宅)での暮らしが主流です。古い建築物を生かし、景観を守りながら暮らす、パリならではのアパルトマン・コミュニティを紹介します。

パリのマンション変遷

建築様式を統一した19世紀のオスマン建築から、経済発展とともに生まれた20世紀後半の高層マンションまで、パリの集合住宅の歴史を振り返ります。

◇パリの象徴となったオスマン建築様式

ナポレオン三世が統治していた19世紀半ば、パリを含むセーヌ県の知事ジョルジュ=ウジェーヌ・オスマンが大規模な都市改造を推進しました。

住宅の高さは道路幅に応じて設定(1859年の法律では道路幅20mなら高さ最大20m)し、バルコニーのデザインも統一。オスマン建築様式と呼ばれる住宅群が完成し、現在"パリらしい"といわれる街並みの基礎が築かれました。

オスマン建築の集合住宅は、荘厳で美しい外観から高級住宅に思えますが、実は幅広い階層の人たちが入居できるように考えられていました。馬車が走りエレベーターもない時代ですから、階ごとに住民の階級が自然と分類されていったのです。

一般的に、地上階には商店が入居し、商店主はその上の階に住んでいました。高すぎず、道からも近すぎない2階(日本の3階)は、もっとも裕福な人たちのアパルトマン。天井がもっとも高く、美しい装飾のバルコニーがついています。最上階は、使用人が住む屋根裏部屋。雇い主の住居のキッチンに直結した専用の階段もありました。

現在もパリに残るオスマン建築様式(オペラ大通り)

◇ 1950年以降の高層マンション

1950年後半になると、より多くの住宅やオフィスビルが必要になり高さ規制が緩和。パリ中心地は31m、パリの外側に位置する地域は37mまで許可され、100mを超える高層住宅も登場しました。2011年には高さ50mまで、オフィスビルは180mまで緩和されました。

こうした現代的な住宅は、石造りのアパルトマンに比べると味気なく見えますが、エレベーターや地下駐車場などが整備され、住環境はより改善したといえます。

1960年代以降に開発された13区の集合住宅。2019年6月から13区の役所とギャラリーが提携し、壁画アートが登場。2020年までに50点が描かれるそうです。

真ん中に立つ一番高いマンションが、2015年にパリ13区に完成した高さ50mの集合住宅「ホーム」。本を積み重ねたようなデザインです。周辺にも次々と個性的なデザインのマンションが建設されています。

集合住宅の構成と管理体制

集合住宅内の住居の構成や管理体制は、集合住宅ごとに異なります。

◇住居のタイプ:アパルトマンとストゥディオ

アパルトマンは集合住宅内の一世帯用の住居をさします。厳密には2部屋以上の住居のことで、ワンルームはストゥディオと呼びます。

一戸の集合住宅のなかに、アパルトマンとストゥディオが混在しているところも少なくありません。階下や階上、隣のアパルトマンを購入して、より広いアパルトマンに改装する人もいるため、アパルトマンの広さも間取りもさまざま。ですからひとつの集合住宅には、1人暮らしの方も子供連れの家族も、多彩な家族構成が集住しています。

◇管理の体制

住宅のメンテナンスや運営に関しては、家主の集まりである管理組合が定期的に会議を行い、必要な工事などについて話し合っています。

共用スペースの清掃やゴミ処理などは、専属の管理人がいれば管理人が担当。いない場合は、外部の清掃業者に委託しています。

また古い建築物と景観を守るため、最低10年に1度、外装工事を行うことが法制化されています。管理組合で決定し、費用を家主たちが分担。1か月から3か月かけて、外壁の掃除と塗り替えを行います。

足場を組み、外装工事を行っている集合住宅

ネットを貼って外壁を修復中のアパルトマン

日常生活のルールとご近所づきあい

ある調査によると、もっとも多いご近所トラブルが騒音に関する問題。円満な共同生活のために、守るべきルールがあります。

◇騒音

騒音の原因となるのは、工事、音楽、電化製品、動物の声など。ひどい騒音に悩まされたときは警察に通報することができます。工事についてパリ市は、「平日の7時前と22時以降、土曜日の8時前と20時以降、日曜日と祝日」を禁止しています。

フランス人はホームパーティーをよく開きます。とくに週末は遅い時間まで(朝早くまで)音楽が鳴り続けていることもあります。そんなときのルールが、事前申告をしておくこと。玄関ホールやエレベーターの中に、日付と時間を書いて、「誕生日パーティーを開くので迷惑をかけるかもしれません。あらかじめご了承ください」と書いた紙を貼っておくのです。度を超えた騒ぎはもちろん禁物ですが、事前にお断りを入れるという姿勢が重要なのです。大きな工事をする際も、貼り紙で住民に告知します。

◇ ごみの出し方

ごみの仕分けは主に3種類。黄色いふたの箱はリサイクルごみ、穴が空いている白い箱には瓶やガラス、その他のごみは緑の箱、という具合。一部の地域には、食品ごみ専用の茶色い箱もあります。

集合住宅の地下の専用スペースや中庭にゴミ箱が用意されていて、住民はいつでもこの箱にごみを捨てることができます。パリ市のごみ収集車が回ってくる時間にあわせて管理人がごみ箱を歩道に出し、空になったら戻します。日本に比べるととても楽で、ありがたい仕組みです。

問題になるのは、ごみ箱が満杯だからと地面に置いておいたり、紙箱をつぶさずにそのまま入れたりする場合など。管理組合から注意喚起の通告が貼られていることもあります。

粗大ごみは、パリ市が無料で回収に来てくれます。その場合は事前にパリ市のホームページで登録し、住宅前に置く日時を指定します。

【左】集合住宅の中庭に置かれたごみ箱
【右】ごみの仕分けを案内するポスター

コミュニティーづくりのイベント

隣人やご近所との付き合いは大切だと分かりながらも、「隣人を知らない」「挨拶する程度」という人がパリでも多いのが現状です。フランスでは親子が同居する慣習がないため、1人暮らしの高齢者も少なくありません。そこで有志の団体やパリ市は、率先してコミュニティー形成を促すイベントを開催しています。

その代表的な例が、1999年にスタートした「フェット・デ・ヴォワザン(隣人祭り)」です。ある高齢者の孤独死をきっかけにパリ17区の助役が提唱。毎年5月、集合住宅の中庭などに集まって、持ち寄った食事を食べながらつながりを深めるお祭りです。いまでは世界規模に拡大。30年を迎えた2019年はフランスで1000万人、世界中で3000万人が参加したそうです。

また、1カ月近く家を空ける人が多い夏は、ふだんの隣人づきあいに助けられる人が多い時期。パリに残っている人が、隣人の植物の水遣りをしたり、ペットの面倒を見てあげたりしている場合もあります。

20周年を迎えた2019年の「隣人祭り」のポスター

未来の集合住宅とコミュニティー

パリが進める地域再開発におけるキーワードは "ソーシャル・ミックス" と"エコ・カルティエ(環境に配慮した地域)"。都市開発ととともにパリが推進するコミュニティーづくりを紹介します。

◇ソーシャル・ミックス

近年つくられた集合住宅では、地上階に保育園や託児所を設置している例が多くあります。現在進んでいる13区や17区の再開発地域では、集合住宅だけでなく、学校やオフィス、商店、文化施設、公園などを建設し、新しい地域を創造しています。

さらに、新築する住宅の一定数を、学生寮や高齢者向け、低所得者層向けの住宅に配分。年齢も家族構成も社会的階層も異なる多様な人が、さまざまな目的で集まる地域づくりが進んでいます。

◇エコ・カルティエ

集合住宅を新築する際には、環境に配慮した建材の使用、太陽光パネルの設置、地熱エネルギーの活用など、環境に配慮した取り組みが積極的に採用されています。パリ最大のエコ・カルティエとなる17区のバティニョール地区の集合住宅では、パリで初めて、ゴミ処理に空気輸送システム(地下のパイプを通してゴミ処理センターに送られる仕組み)を採用したそうです。

パリ最大のエコ・カルティエとなる17区のバティニョール地区。公園の周囲に現代的なデザインの集合住宅が建設されています。

国立図書館のあるパリ南部の13区では、移転した大学の周辺に徐々にマンションが建設され、公園が整備されてきています。

19世紀の都市改造の時代から、多種多様な人々がともに暮らす住宅づくりが進められてきたパリ。環境問題や治安といった新たな課題を抱えている現代だからこそ、集合住宅内のコミュニティーづくりはもちろん、多世代と多文化が混在する地域のコミュニティーをさらに活性化させることが重要と考えられているのです。未来に向けたパリの取り組みは、日本にとっても参考になりそうです。